歯ブラシがなかった時代、歯はどうやって磨いていたのか
公開日:2026-07-11
朝起きたら歯を磨く。その習慣の前には、塩と指で歯を磨く暮らしがあった。
歯ブラシが日本の一般家庭に普及したのは、大正から昭和にかけてのことだ。
毎朝起きたら歯ブラシを手にとり、歯磨き粉をつけて磨く。この習慣は今や当たり前だが、歯ブラシという道具自体が存在しなかった時代、歯の手入れは別の方法で行われていた。
今、当たり前にあるもの
現在の歯ブラシはナイロン製の毛が密集し、ヘッドの形状・毛の硬さ・持ち手の設計まで細かく設計されている。電動歯ブラシ・音波歯ブラシも普及し、歯科医が推奨する磨き方も進化している。
歯磨き粉(歯磨き剤)にはフッ素・研磨剤・抗菌成分が含まれ、虫歯・歯周病・口臭対策を兼ねる製品が標準だ。日本では3食後の歯磨きを習慣とする人が多く、携帯用歯ブラシを持ち歩く文化も定着している。
それがなかった時代
歯ブラシ以前の日本では、歯の手入れには「塩」と「指」が使われた。
「塩磨き」と呼ばれる方法で、人差し指に塩をつけて歯の表面をこすった。塩の研磨作用と殺菌効果で歯を清潔に保つ方法で、江戸時代から広く行われていた習慣だ。
植物を使った方法もあった。「房楊枝(ふさようじ)」と呼ばれる木の枝の先端を噛んで繊維を広げ、歯ブラシ状にして使うものだ。クロモジ・ヤナギ・ニッケイなど香りの良い木が使われた。仏教寺院では「歯木(しもく)」として、朝の清潔を保つ儀式として用いられた。
現在でもアフリカや中東の一部では、「ミスワク」と呼ばれる木の枝を歯ブラシ代わりに使う習慣が残っている。植物の枝を使った歯磨きは、世界各地に独自の形で存在していた。
どう変わってきたか
西洋式の歯ブラシが日本に入ってきたのは明治時代のことだ。当初は獣毛(豚毛・馬毛)を木の柄に植え付けたものが使われていた。
大正時代に国産歯ブラシの製造が始まり、歯磨き粉(当初は粉末状)と一緒に売られるようになった。1930年代には「朝の歯磨き」キャンペーンが展開され、衛生習慣として歯磨きが普及した。
第二次世界大戦後、ナイロン製の毛を使った歯ブラシが普及し、清潔で長持ちする現代的な歯ブラシに移行した。学校での歯磨き指導も始まり、子どもの頃から習慣として身につける文化が定着した。
歯の痛みは「虫」のせいだと信じられていた
かつて、虫歯の原因は「歯虫(はむし)」という虫が歯を食い荒らすからだと信じられていた。
この考え方は日本だけでなく、古代メソポタミア・中国・ヨーロッパでも広く存在した。痛みの原因が見えない以上、目に見えない「虫」の仕業と考えるのは自然な発想だった。
歯科治療が存在しなかった時代、激しい歯痛は人々を長期間苦しめた。民間療法として、にんにくや塩を患部に当てる・痛い歯に術を施す呪術的な方法まで、さまざまな対処が試みられた。
細菌が虫歯の原因であることが科学的に解明されたのは19世紀末のことだ。「虫歯」という言葉は今も使われているが、そこに虫はいない。長く信じられた誤解が、言葉だけになって残っている。