辞書がなかった時代、言葉の意味はどうやって調べたのか
公開日:2026-09-07
わからない言葉をすぐに調べられる環境は、歴史的には非常に新しい。辞書が生まれる以前、人々は言葉とどう向き合っていたのか。
わからない言葉に出会ったとき、すぐに検索できる環境は当たり前ではなかった。
辞書というものが存在しない時代、言葉の意味は経験の中で学ぶか、知っている人に聞くほかなかった。それが言葉の理解の仕方を根本的に形作っていた。
今、当たり前にあるもの
現代では辞書アプリ・ウェブ検索・音声アシスタントにより、どんな言葉でも数秒で意味を調べられる。広辞苑・大辞林などの国語辞典はデジタル版が主流になりつつあり、英和・和英・専門用語辞典も統合して参照できる環境が整っている。
子どもの学習から専門家の調査まで、「辞書を引く」行為は日常の一部だ。
それがなかった時代
日本に辞書が存在しなかった時代、言葉の意味は主に「師から弟子へ」という口伝えで継承された。学問を学ぶとは、師のそばで言葉を体感しながら覚えることだった。
平安時代に「和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)」という分類式の語彙集が編まれているが、これは今日の辞書とは形式が異なり、物の名称を分類したものだった。
漢字の意味を知る手段として中国の字書(じしょ)が輸入されていたが、日本語に訳してあるわけではなく、漢文の素養がなければ参照できなかった。庶民が言葉の意味に疑問を持っても、確かめる手段は周囲の大人に聞くことだけだった。
どう変わってきたか
近代的な国語辞典の先駆けとなったのは、大槻文彦(おおつきふみひこ)が1891年に完成させた「言海(げんかい)」だ。五十音順に言葉を並べ、意味・品詞・語源を記す形式で、現在の国語辞典の基本形を作った。
明治政府が近代教育制度を整えるにあたり、標準的な国語の定義が必要とされ、辞書の整備が推進された。戦後は岩波書店の「広辞苑」(初版1955年)が権威ある国語辞典として定着し、改訂のたびに話題を集めた。
電子辞書は1990年代に普及し、複数の辞典を一冊に収める利便性で紙の辞書市場を縮小させた。スマートフォンの普及後は辞書アプリや検索エンジンが主役になった。
言葉を知らないまま使うこと
辞書のない時代、人々は意味を完全には理解しないまま言葉を使うことが多かった。
方言が地域ごとに大きく異なったのも、標準語を規定する辞書がなかったためだ。同じ日本語でも地域によって全く違う意味で使われる言葉が無数にあり、それが地域文化の豊かさを生んでいた面もある。
辞書によって「正しい言葉」が定義されることは便利である一方、言葉の多様性を均質化する面も持つ。言葉とは生き物であり、辞書は常にその後を追いかけている。