牛乳がなかった時代、日本人が乳製品を避けていた理由
公開日:2026-08-12
毎朝飲む牛乳。日本人が乳製品を日常的に飲み始めたのは、思っているよりずっと最近のことだ。
牛乳が日本の家庭に普及したのは、戦後1950年代以降のことだ。
朝食に牛乳を飲み、チーズやバターを料理に使う。この習慣は現代では当たり前だが、日本の歴史において乳製品は長い間「外来の食べ物」だった。
今、当たり前にあるもの
現在の日本では牛乳・ヨーグルト・チーズ・アイスクリームなどの乳製品が日常的に消費されている。牛乳は学校給食の必須アイテムで、カルシウム補給の観点から子どもに飲ませる習慣が定着している。
コンビニで100円台のコーヒー牛乳・乳飲料が売られており、乳製品は食生活の中心的な存在だ。
それがなかった時代
日本では長い間、乳製品を飲食する習慣がほとんどなかった。
仏教の影響で肉食が忌避されていた時代、牛は農耕・運搬の動物であり、食べたり乳を搾ったりする対象ではなかった。牛乳を飲む習慣は、仏教文化とともに育った日本社会の価値観とは相容れなかった。
「蘇(そ)」と呼ばれる乳製品は奈良・平安時代に貴族の嗜好品として存在したが、庶民には無縁のものだった。
成人の多くが「乳糖不耐症」(牛乳を飲むとお腹が痛くなる体質)だったことも、乳製品が定着しなかった一因だ。乳製品を日常的に消費しない食文化では、大人になるにつれラクターゼ(乳糖分解酵素)の活性が低下する。これは遺伝的・文化的な背景の両方が絡み合っている。
どう変わってきたか
明治維新後、西洋化政策の一環として牛乳が「健康に良い西洋の食品」として奨励された。明治天皇が牛乳を飲んだとされる話が広まり、上流階級から普及し始めた。
転機は戦後だ。学校給食に脱脂粉乳が導入(後に牛乳へ移行)され、子どもたちが毎日乳製品を摂取するようになった。この世代が大人になり、乳製品を普通の食べ物として消費するようになった。
1960〜70年代の高度経済成長期に冷蔵技術が普及し、牛乳の宅配・スーパーでの販売が定着した。
「体に悪い」から「体に良い」への反転
近年、牛乳に対する科学的見解は揺れ動いている。
「牛乳でカルシウム補給」は長年常識とされてきたが、「牛乳のカルシウム吸収率はそれほど高くない」「成人に牛乳は不要」という研究・主張も出てきた。
乳糖不耐症の問題も再注目されており、「日本人の体には牛乳が合わない」という言説も見られる。
「何が体に良いか」の常識は変わる。牛乳の歴史は、食の「当たり前」が政策・文化・科学の積み重ねで作られることを示している。