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自動車がなかった時代、都市には深刻な「糞尿問題」があった

公開日:2026-08-03

自動車がなかった時代、都市には深刻な「糞尿問題」があった

道路を走る車は当たり前の存在だ。しかし車が登場したとき、それは「環境問題の解決策」として歓迎されていた。

ガソリン自動車が実用化されたのは、1885年のことだ。

車が走り排気ガスを出す。現代では「車=環境負荷」のイメージがあるが、登場当初の自動車は、深刻な都市問題を解決するものとして歓迎された。その問題とは、「馬糞」だった。

今、当たり前にあるもの

現在の日本の自動車保有台数は約8000万台。軽自動車・普通車・トラック・バスまで含めれば、国民のほぼ一人に一台の計算だ。

電気自動車(EV)の普及が進み、ガソリン車から電動車への転換が世界規模で進んでいる。自動運転技術の開発も加速し、「車は自分で運転するもの」という常識が変わりつつある。

それがなかった時代

19世紀の都市では、馬が主要な輸送手段だった。馬車・乗用馬・荷馬車が街を行き交い、人と荷物を運んだ。

しかし馬は大量の糞を出す。1日に約15〜20kgだ。ニューヨークやロンドンのような大都市では、毎日数百トンもの馬糞が街路に積み上がった。夏は悪臭が漂い、雨が降れば道路が糞尿の川になり、乾燥すれば砂埃とともに馬糞が舞い上がった。

「1898年の馬糞危機(The Great Horse Manure Crisis)」と呼ばれる事件がある。ニューヨーク市で開かれた都市問題の国際会議で、専門家たちは「このペースで馬が増え続ければ、50年後にはマンハッタンが馬糞で3階建てビルの高さまで埋まる」と試算した。当時の人々にとって、これは笑い話ではなく現実の恐怖だった。

どう変わってきたか

1885年、ドイツのカール・ベンツが世界初のガソリン自動車を開発した。当初は物珍しい乗り物に過ぎなかったが、馬糞問題に悩む都市にとって自動車は救世主に見えた。

「自動車は馬と違って糞を出さない、清潔な乗り物だ」という論調が広まり、自動車の普及を支持する声が出た。現代から見れば皮肉なことだが、排気ガス問題が認識される前の時代、自動車は「環境に優しい」存在として歓迎されたのだ。

日本で自動車が普及し始めたのは大正時代で、戦後の高度経済成長期に一般家庭への普及が本格化した。モータリゼーションとともに、かつての馬の仕事は完全に消えた。

馬糞危機を解決したのは、専門家ではなかった

1898年の国際会議で馬糞問題の解決策を議論した専門家たちは、10年後には問題そのものが消えていることに気づかなかった。

自動車の登場が問題を解決したのだ。しかしその解決策は会議で出てきたものではなく、全く別の文脈で開発された技術だった。

「予測できない技術が、全く別の問題を解決する」——これは歴史が繰り返すパターンだ。専門家が頭を悩ませている問題が、外部から来た技術によって消えてしまうことがある。

自動車が排気ガス問題を生んだように、今の解決策が将来の問題になることもある。そして今は想像もできない技術が、その問題を解決するかもしれない。

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