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蚊取り線香がなかった時代、虫刺されはどう防いでいたのか

公開日:2026-09-03

蚊取り線香がなかった時代、虫刺されはどう防いでいたのか

夏の夕暮れ時、螺旋形の煙がゆっくり漂う。蚊取り線香が登場したのは明治時代で、それ以前の蚊対策は全く異なるものだった。

夏になると軒先に緑色の螺旋が現れ、白い煙がゆっくりと漂う。

蚊取り線香の独特な香りは、日本の夏の記憶と深く結びついている。しかしこの道具が生まれたのは明治時代のことで、それ以前の人々は別の方法で夏の夜を蚊から守っていた。

今、当たり前にあるもの

現代の蚊対策は蚊取り線香だけではない。電気式の液体蚊取りや蚊取りマット、貼るタイプの虫除けシール、スプレー式の虫除け剤、LED光で蚊を引き寄せて駆除する装置まで多様な製品が存在する。

屋外ではディート(DEET)やイカリジンを成分とした虫除けスプレーが標準的になり、長袖・長ズボンと組み合わせて防虫対策を行う。かつての夏の悩みは、道具の進化によって大きく軽減された。

それがなかった時代

蚊取り線香が普及する以前、最も広く使われていた蚊対策は「蚊帳(かや)」だ。麻や綿の薄い布を四隅から吊るして寝床を囲い、蚊が入れない空間を作る。平安時代にはすでに存在が確認され、江戸時代には庶民の家庭にも広まっていた。

「蚊いぶし(かいぶし)」も一般的な方法だった。ヨモギや松葉、稲藁などを燃やして煙を出し、蚊を追い払う。現代の蚊取り線香の原理に近いが、煙の量が多く、家の中での使用は難しかった。

うちわで風を起こして蚊を寄せ付けない方法も使われ、子どもが寝付くまで親がうちわを扇いでいた風景は、昭和初期まで各地にあったとされる。

どう変わってきたか

現在の蚊取り線香の原型を作ったのは、上山英一郎(かみやまえいいちろう)と妻のゆきだ。1890年(明治23年)、除虫菊(じょちゅうぎく)という植物に蚊の忌避効果があることを知り、粉末を線香状に成形する方法を開発した。

最初は棒状だったが、燃焼時間が短く実用的でなかった。ゆきが「蛇がとぐろを巻いた形にすれば長く燃やせる」と提案し、螺旋形が生まれたとされる。この形は特許を取得し、現在に至るまで世界中で使われている。

蚊と人の長い戦い

蚊は人類が農耕を始めたころから共存する存在で、マラリア・デング熱・日本脳炎など様々な病気を媒介する。日本でも戦前はマラリアが西日本で流行し、蚊対策は公衆衛生上の重要課題だった。

終戦後のDDT散布によって国内のマラリアは根絶されたが、気候変動による気温上昇で蚊の生息域が北上しており、再び感染症リスクへの関心が高まっている。蚊取り線香の煙の向こうに、長い歴史がある。

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