コーヒーがなかった時代、それは悪魔の飲み物と呼ばれた
公開日:2026-08-14
毎朝飲むコーヒー。かつてこの飲み物は、教会に禁止され、カフェを閉鎖しようとした王に反発されたほど社会を揺るがした。
コーヒーが世界に広まったのは、15〜16世紀のことだ。
朝のコーヒーは現代人の日常の一部だ。しかしコーヒーは登場当初、「悪魔の飲み物」「禁止すべき危険物」として迫害を受け、それでも人々の間で広まり続けた不思議な飲み物だ。
今、当たり前にあるもの
現在の日本のコーヒー消費量は年間約45万トン(焙煎ベース)で、緑茶消費量を上回っている。缶コーヒー・コンビニコーヒー・カフェのカップコーヒー・自宅でのドリップまで、形は様々だ。
コーヒー専門店の世界チェーン(スターバックス・ドトールなど)が全国に展開し、スペシャルティコーヒーへのこだわりを持つ人も増えている。
それがなかった時代
コーヒーの起源は諸説あるが、エチオピアで9世紀頃に発見されたという説が有名だ。ヤギ飼いのカルディが、ある木の実を食べたヤギが興奮して眠らなくなることに気づき、その実を試したのが始まりとされる(伝説的な話で証明はされていない)。
15世紀頃、アラビア半島のイスラム世界でコーヒーが飲まれるようになった。当初は修行者・学者が夜の勉強のために使い、「眠気覚ましの薬」として使われた。
コーヒーへの迫害と抵抗
コーヒーの普及は、各地で強い反発を受けた。
イスラム社会では「コーヒーは酒と同様の興奮剤で、宗教的に禁じるべき」という議論が起き、メッカでは一時カフェが閉鎖された(16世紀)。しかし民衆の反発が強く、禁令は長続きしなかった。
ヨーロッパでもコーヒーの伝来時に宗教的な議論があった。「悪魔の飲み物」と呼ぶキリスト教聖職者もいたが、ローマ教皇クレメンス8世がコーヒーを試飲して「これほどおいしいものを悪魔だけに楽しませるのはもったいない」と述べ、洗礼を施したという逸話がある。
イギリスでは1675年に国王チャールズ2世がコーヒーハウス閉鎖命令を出した。カフェで人々が集まり政治を議論することを恐れたためだ。しかし民衆の反発が激しく、11日後に撤回された。
どう変わってきたか
コーヒーはカフェ(コーヒーハウス)文化とともに広まった。ヨーロッパのコーヒーハウスは17〜18世紀に政治・文学・ビジネスの議論の場となり、「ペニー大学」と呼ばれた(1ペニーで入れ、知識人と会話できるから)。
日本には明治時代に本格的に伝わり、1888年に東京・上野に日本初のコーヒーハウス「可否茶館」が開店した。缶コーヒーが登場したのは1969年で、自動販売機文化と結びついて普及した。
権力が止められなかった飲み物
コーヒーは宗教指導者に禁じられ、王が閉鎖しようとしても広まり続けた。
それはコーヒーが単なる飲み物ではなく、「人が集まって話す場所」をつくるものだったからかもしれない。カフェという社交空間、そこで生まれる議論——コーヒーは情報と知識の交換を加速させた。
今でもコーヒーを片手に仕事・会話・思索をする。その習慣のルーツは、権力に禁じられても守られてきた小さな飲み物にある。