宅配便がなかった時代、荷物の送り方はどれほど不便だったのか
公開日:2026-07-22
翌日届く・時間指定できる・玄関まで持ってくる。日本の宅配便は世界のどの国とも異なる水準を実現している。
個人向け宅配便サービスが日本で始まったのは、1976年のことだ。
ネットで注文すれば翌日届く。時間帯を指定できる。再配達も依頼できる。日本の宅配便が当たり前に提供するこのサービスは、世界標準からすると異例の水準だ。
今、当たり前にあるもの
現在の日本の宅配便取扱個数は年間約50億個(2023年度)。1日平均で約1400万個が届けられている計算だ。ヤマト運輸・佐川急便・日本郵便の3社が市場を分け合う。
翌日配達は日本の多くのエリアで標準サービスとして提供されている。午前中・14〜16時・16〜18時・18〜20時・19〜21時などの時間帯指定が可能で、不在時は再配達を依頼できる。荷物の追跡システムは細かく、「集荷完了・仕分け中・配達中・完了」まで自宅のスマートフォンで確認できる。
この水準のサービスは、アメリカ・ヨーロッパでも一般的ではない。「玄関前に置いておく(不在でも配達完了)」が多くの国の標準だ。
それがなかった時代
宅配便以前の荷物の送り方は主に「鉄道小荷物」か「郵便小包」だった。
鉄道小荷物は、駅まで荷物を持ち込んで、相手も駅まで取りに行く仕組みだ。送る側も受け取る側も駅に行く手間が必要で、重い荷物を自分で運ぶ必要があった。郵便局の小包も、窓口への持ち込みが基本だった。
配達日時の指定はできない。追跡サービスもない。届いたかどうかは、届いた相手から連絡を受けて初めてわかる。「送った」から「届いた」までの間は、わからない時間だった。
ビジネスでの急ぎの荷物は「バイク便」や「チャーター便」を使うしかなく、コストは個人では手が届かない金額だった。
どう変わってきたか
1976年、ヤマト運輸が「宅急便」サービスを開始した。これが日本初の個人向け宅配便だ。
当時のキャッチコピーは「ご不在なら再配達します」。これが画期的だった。それ以前の荷物配達で「不在なら出直す」という概念はなかった。受け取り手が不在なら持ち帰り、また別の日に届ける——このサービスが宅配便の普及を後押しした。
翌日配達・時間帯指定・追跡システムは、その後段階的に追加された機能だ。ネット通販の急拡大(2000年代以降)が宅配便の需要を爆発的に増やし、現在の規模に至った。
「時間指定配達」は日本だけにある文化
日本の宅配便の「時間帯指定」は、他国にはほとんど存在しないサービスだ。
アメリカや欧州では「その日に届く」だけで上出来とされる。時間帯の指定ができても数時間単位のレンジで、2時間枠の指定が可能な日本のサービスは別格だ。
なぜ日本だけが可能なのか。配送ルートの緻密な計画・ドライバーの高い時間管理意識・交通インフラの整備・顧客の「待つ」文化(在宅時間が長い)など、複数の要因が重なる。
しかしこの高水準サービスの裏で、ドライバーの長時間労働・再配達の増加による負担が問題になっている。2024年問題(物流業界の時間外労働規制)への対応として、置き配・宅配ボックスの普及が進んでいる。
「当たり前」の利便性を維持するために、何かを変えなければならない時期に来ている。