トイレットペーパーがなかった時代、人々は何を使っていたのか
公開日:2026-07-14
当たり前のように使うトイレットペーパーは、日本に普及したのは戦後のことにすぎない。
トイレットペーパーが日本の一般家庭に普及したのは、戦後のことだ。
トイレに行けば必ずある。それが当然の光景だが、「紙でふく」という習慣が広まったのは、人類の歴史全体から見ればごく最近のことだ。そして何より、日本には長く「紙でふく」とは別の習慣があった。
今、当たり前にあるもの
現在の日本のトイレットペーパーは、柔らかさ・厚さ・枚数の種類が豊富だ。1枚重ね・2枚重ね・3枚重ねがあり、香り付きや保湿タイプもある。日本のトイレットペーパーは世界的にも品質が高いとされ、観光客が土産として買っていくこともある。
ウォシュレット(温水洗浄便座)の普及により、ペーパーの使用量を減らす人も増えた。日本のウォシュレット普及率は約80%で、他国に類を見ない高さだ。
それがなかった時代
日本では古来、「籌木(ちゅうぎ)」と呼ばれる木の薄い板や棒が使われていた。
奈良時代や平安時代の遺跡から籌木が出土しており、トイレ遺構とともに発見されることが多い。木のへらのような形状で、用を足したあとにこれで拭き取った。使用後は洗って再利用することもあった。
水洗式ではない「厠(かわや)」では、ボットン式の穴の横に水や砂が置かれ、洗い流す方法が使われることもあった。川や水路に隣接した厠では、流水で洗う方式も一般的だった。
江戸時代になると、紙を使う習慣が上流階級に広まった。ただしこれは専用の「落とし紙」と呼ばれる再生紙で、今のトイレットペーパーとは別物だ。庶民には高価で手が届かなかった。
どう変わってきたか
トイレットペーパーの発祥は中国だとされる。14世紀の文献に皇帝用の紙の記録がある。西洋でも17〜18世紀には紙を使う習慣があったが、専用の製品として販売されたのは1857年のアメリカが最初とされる。
日本でトイレットペーパーが製造・販売されたのは明治時代からだ。しかし高価で一般には普及せず、長く「贅沢品」だった。一般家庭に広まったのは戦後の高度経済成長期、特に洋式トイレの普及とともに1960〜70年代のことだ。
1973年のオイルショックの際、日本でトイレットペーパーの買い占め騒動が起きた。デマがきっかけでスーパーからペーパーが消え、主婦たちが店頭に長蛇の列を作った光景は「昭和の記憶」として語り継がれている。2020年のコロナ禍での再現も記憶に新しい。
世界では「紙でふかない」が多数派
日本ではトイレットペーパーが標準だが、世界全体では状況が異なる。
インド・中東・東南アジアの多くの地域では、水で洗う方法が今も主流だ。左手と水を使う方法(右手は食事用、左手は排泄用)は、宗教的・文化的背景とともに根づいている。
世界人口の約75%は、現在もトイレットペーパーを日常的に使用していないとも言われる。「紙でふく」という習慣は、文化の一形態にすぎない。
ウォシュレットは「水で洗う」という東洋の文化と、洋式トイレの組み合わせだ。日本のウォシュレットが海外で評価されているのは、技術の優秀さだけでなく、衛生の考え方が違ったアプローチから再発見されたからかもしれない。